今回は地衣類が石材に与える影響についてお話ししたいと思います。石材に与える悪い影響としては、おもに石材の劣化が少しずつ進む事が知られています。
地衣類がなぜ石材を劣化させるのかというと、地衣類の体を構成している複数の層のうち髄層は菌類で構成されていて、その菌類の菌糸が石材の中にミクロのレベルで入り込み、それが周囲の温度や水分の影響を受けて膨張収縮を繰り返して少しずつ石材を破壊していきます。
この現象はおもに固着地衣類(痂状地衣類)で顕著にみられることで、葉状地衣類や苔植物も石材に貼りついて生息していますが、これらの場合では仮根が石材表面の粗面を利用して貼りついているだけで石材内部まで仮根や地衣類の菌糸が入り込むことは知られていません。
また石材といっても種類がありますが、酸性成分に弱い石材のコンクリート構造物や石灰岩などの場合は、上記の菌糸による物理的影響のほかに地衣類の共生菌類に蓄積される地衣成分と呼ばれる化学物質が酸性の物質が多く、そのため石材がその地衣成分の化学的影響により劣化してしまいます。コンクリートの場合ですと、コンクリートの中性化現象というアルカリ性のコンクリートが中性に傾いて内部の鉄筋が腐食して膨張することで、コンクリートに亀裂を発生させてしまう恐れが強まります。
以上のような悪影響が考えられるのですが、地衣類は石材に対して劣化をすすめるから100%有害だとは言いきれない面もあります。例えば、物質を劣化させてしまう紫外線や赤外線などを含む強い日差しから石材表面を保護したり、雨風による浸食や温度湿度の変化による風化を遅らせる作用があるのではないかという考えもあります。地衣類愛好家としては後者の考えを支持したいところではありますが、個人的には建造物などに生えた地衣類については駆除した方が良いと考えています。